1993年に栃木県日光市にオープンした「東武ワールドスクウェア」。8ヘクタールの園内には、世界各国の遺跡や建築物のミニチュアがところ狭しと並びます。
開業当時は “テーマパークブーム” の真っ只中。一方で、全国各地で華々しくオープンしたそれらの施設は、後にほとんどが姿を消しています。
総合保養地域整備法(通称リゾート法)や余暇需要の拡大を背景に、1980〜90年代に沸き起こった “テーマパークブーム”。多くの施設では巨額な初期投資を回収することができず、集客も低迷。巨額の負債を抱えたまま倒産する施設が続出した。


そんな中で 堅実な経営を続けてきたのが「東武ワールドスクウェア」です。
この記事では、これまでの30年の歴史を紐解くとともに、テーマパークとしての特徴、さらには東武鉄道グループの観光戦略にも触れながら「東武ワールドスクウェア」の現在をご紹介します。
テーマは “1日でめぐる世界旅行”

テーマパークで最も多いテーマの1つが “外国” です。
オランダの街並みを再現した「ハウステンボス」、アジアの遺跡を建設した「レオマワールド」、日本にいながらその国を体感できるような「志摩スペイン村」「新潟ロシア村」など、数々の外国テーマパークが造られてきました。
一方、東武ワールドスクウェアは “あらゆる遺跡と建築を25分の1スケールに落とし込む” ことで 世界中をテーマにすることに成功します。
テーマパークとは、文化や国、時代、キャラクターなど特定のテーマに合わせて全体を演出する大規模な観光施設のこと。 ーJTB総合研究所 観光用語集

“ミニチュアで世界旅行できるテーマパーク” というアイディアの生みの親は、東武鉄道2代目社長の根津嘉一郎氏です。
1987年頃に着想して、わずか6年後には実現するのですが、その背景にあったと考えられるのが 1983年に開業した2つのテーマパークです。

そのテーマパークこそが、東京ディズニーランドと長崎オランダ村です。
社会現象になるほどの人気っぷりを目の当たりにした各地の有力者や経営者たちは、好景気による追い風を受けつつ、“テーマパーク産業” という新しい成長産業へと身を乗り出したのです。
堅実経営の小規模テーマパーク

東武鉄道の創立95周年事業として、1993年にオープンした「東武ワールドスクウェア」。初年度には283万人を集客し、瞬く間に日光・鬼怒川温泉エリアを代表する人気観光施設に仲間入りします。
しかし、開業から年月が経つにつれて集客数は減少。2005年にはピーク時の10分の1(27.5万人)にまで低迷します。
この話は東武ワールドスクウェアに限ったものではありません。開業初年度がピークでその後の集客に苦戦するのは、テーマパークではよくある話なのです。

黒字経営の秘訣
集客は伸び悩んだ一方で、経営状態は良好でした。その要因として考えられるのが、初期投資額と規模の小ささです。
| 総工費 | 面積 | |
| 東京ディズニーランド | 1800億円 | 約51万㎡ |
| ハウステンボス | 2200億円 | 約152万㎡ |
| 志摩スペイン村 | 600億円 | 約34万㎡ |
| サンリオピューロランド | 720億円 | 約4.6万㎡ |
| 東武ワールドスクウェア | 140億円 | 約9万㎡ |
当時は “東京ディズニーランドに匹敵する大テーマパーク” を造ろうとした施設が多かった一方で、東武ワールドスクウェアはリーズナブルかつコンパクトに造られました。
実物大の街並みやライド型アトラクションが必要ない “ミニチュアを使ったテーマパーク” というアイディアが功を奏したのです。
他にも、当時は複数の企業や地方自治体の出資する「第3セクター」のテーマパークが多かったのに対して、東武鉄道単体の事業だったことも特徴の1つに挙げられます。
ここで過剰な投資が行われなかったのは、東武鉄道の懸命な経営判断だったと言えるでしょう。

博物館要素の強い施設
有名なものから無名なものまで、世界中の様々な遺産や建築物が展示されている園内は、見方によっては “野外博物館” と言えるかも知れません。
パークの理念は「世界の遺跡と建築文化を守ろう」。教育要素も大きく、園内では修学旅行生や社会科見学の生徒も多く見られます。

テーマパークとして見れば地味な方ですが、博物館として見れば 質も量も備えた良質な体験型ミュージアムなのです。
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入園者数のV字回復 と 東武鉄道の観光戦略

2002年には、東武鉄道の直営から 株式会社東武ワールドスクウェア へと運営が変わります。同社は東武鉄道の完全小会社であり、移管後も東武鉄道による積極的なテコ入れが行われました。
東京スカイツリーブーム

2000年代後半、東武鉄道では世紀の一大プロジェクト「東京スカイツリー」の建設が進められていました。
高さ634mの世界一高い自立式電波塔は、建設時から熱い注目を集めます。期待がピークに達しつつあった2010年、本物よりひと足早く、スカイツリーのミニチュアが園内に造られます。
ミニチュアといえども 総工費2億円、高さはなんと26m! そのインパクトは抜群で、2010年の入園者数は前年比2倍の50万人を越えました。
「東武ワールドスクウェア駅」開業 と 積極的な観光投資

その後も入園者数は50万人前後で推移しており、最低迷期を脱した東武ワールドスクウェア。2017年には「東武ワールドスクウェア駅」が開業して、アクセスが大幅に改善されます。
さらに東武鉄道では積極的な観光投資が行われます。2017年には「SL大樹」が運行を開始。下今市駅がレトロ調にリニューアルされました。2023年には新型特急「スペーシアX」がデビュー。テーマパークのみならず、日光鬼怒川エリア全体を盛り上げようとしているのです
日光・鬼怒川温泉エリアの観光客数は、1990年代のピークを迎えてから減少していました。特に鬼怒川温泉の落ち込みは凄まじく、年間300万人いた宿泊客数は半分にまで減少しています。そこで、特急の新宿駅乗り入れなど様々な施策を打ち出しているのです。
日光・鬼怒川温泉エリア と テーマパークの今後

年間1千万人を集客する日光市にとって、東武ワールドスクウェアの50万人は微々たる数字かも知れません。
しかし、観光地は多様な選択肢があって成り立つもの。日光東照宮だけでなく、奥日光の大自然や鬼怒川温泉の旅館群、東武ワールドスクウェアや日光江戸村などの様々な観光資源があって初めて、「日光・鬼怒川温泉」という観光地が輝くのです。

近年はインバウンド需要により、コロナ禍以降の観光客数は右肩上がりに伸びています。一方で、2020年に東京都内に開業した「スモールワールズ」は、ミニチュアを扱った類似施設として大きな脅威となっています。
開業から30年。今後も注目です。
訪問日 2021年8月8日
アクセス・宿泊
交通:東武鬼怒川線「東武ワールドスクウェア駅」よりすぐ
運営:株式会社東武ワールドスクウェア
HP:公式サイト
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