武蔵野台地の縁に広がっている、埼玉県入間市の中心市街地。道路上空を覆うペデストリアンデッキと2つの大型商業ビルが並ぶ街なかは、都心以外では珍しい ”商業よりもエンターテイメント機能を重視” して再開発が行われた場所でした。
入間市駅

池袋から西武池袋線に乗車しておよそ40分。「入間市駅」にやってきました。
埼玉県西部に位置する入間市は、都心近郊の典型的なベットタウン のうちの1つ。駅前には商業施設「西武入間Pepe」が営業しており、バスターミナルからは郊外の住宅地や「三井アウトレットパーク入間」などへ向かう路線バスが発着しています。

入間市の中心市街地は、駅から南側一帯に広がっています。
街のメインストリートは「アポポ地区」と呼ばれており、駅前から丸広百貨店、SAIOS、ipotまで続く1本の軸となっています。
故きを温ねて新しきを知る

アポポ地区の通りよりも一本西側には 歩行者スケールの小路 があります。
駅前ペデストリアンデッキから直接繋がっており、道沿いには適度にお店が並び、車の往来も少なく、街路樹の緑の心地の良い歩行者空間になっています。


道沿いには、特徴的な2つの公園があります。
「新しきを知る公園」半円形状の野外劇場を備えたモダンな空間。
「故きを温ねる公園」旧豊岡小学校跡地のどこか懐かしい空間。
旧豊岡小学校の校門の先には、立派なくすのきが植えられています。地域の歴史を感じられるる、まさに故きを温ねて新しきを知る空間です。

小路を抜けた先には、丸広百貨店の巨大な建物が立ちふさがります。この歩行者軸は、どうやら駅とデパートを繋ぐ役割を果たしているようです。
丸広百貨店入間店

「丸広百貨店入間店」は1989年(平成元年)に開業しました。
入間市駅と旧市街地を結ぶ軸上に立地しており、入間市の商業の核として、長らく中心街の賑わいを支えてきました。

2階からは、なんと駅とは反対方向にペデストリアンデッキ が伸びています。視界の先には、2つの大型ビルが見えました。
豊岡再開発地区

「ipot」と「SAIOS」と呼ばれる2つの商業ビルが並ぶこの場所は、入間市中心部の豊岡地区です。
1990年代後半の再開発によって誕生したエリアで、映画館、ボーリング場、大型屋内公園、ゲームセンターなどの施設が営業しています。都心以外では珍しい 商業よりもエンターテイメント機能を中心としているエリア なのです。

ビルの谷間と、道路上空を覆うペデストリアンデッキの組み合わせは 入間市駅前よりも都会的に見えます。駅からおよそ700mも離れた場所に突如現れる、高密度な都市空間です。
旧市街地

デッキからさらに南側には「町屋通り」が続いています。実は、駅から離れたこの場所こそが、古くからの街の中心でした。
江戸時代には、日光脇往還の宿場町として賑わいをみせた扇町屋宿(豊岡地区の南側)。しかし1915年(大正4年)に武蔵鉄道(現在の西武池袋線)が開業すると、徐々に街の中心性が失われます。そこで街の活性化を目指すべく、旧市街と駅のちょうど中間で、この大規模な再開発が行われたのです。
SAIOS(サイオス) トイザらス、ボーリング場、大型室内公園、アウトレットなど

1997年(平成9年)に、再開発の第一弾として「SAIOS」がオープンします。
当初は「トイザらス」をメインテナントとするエンタメ色の強い商業ビルでしたが、2019年に撤退してしまいます。現在も「ボーリング場」は残るものの、39OUTLET、ダイソー、トライアル、大型室内公園(ピュアハートキッズランド)などの生活に寄り添ったテナントにシフトしており、地域住民の日常的な需要を取り込んでいます。
ipot(アイポット)映画館、ゲームセンター、パチンコ

SAIOSの向かい側にある「ipot」は、2000年(平成12年)に開業しました。
「ユナイテッド・シネマ入間」は、関東地方初となるユナイテッド・シネマとして華々しくオープンし、9スクリーン1500席を擁する当時県内最大級のシネコンでした。
郊外にあるアミューズメント系の大きい建物と言えばパチンコ店かゲームセンターの二択であり、シネコンと言えばショッピングモール内にあるのが普通な中で、映画館+αのビルが ”街なか” にある というのはなかなか異例なことです。
国道16号・埼玉県西部のアミューズメント競合

エンタメ色の強い ipot と SAIOS ですが、両者を取り巻く競争環境は年々厳しくなっています。
埼玉県西部では「三井アウトレットパーク入間」「コストコ」「ドン・キホーテ」「ラウンドワン」が国道16号線沿いを中心に展開しており、広い駐車場を備えるロードサイド型店舗として人気を集めます。

鉄道沿線に目を向けてみると、2024年に所沢駅直結の「エミテラス所沢」が開業しています。
西武鉄道沿線で最大級のショッピングモールであり、映画館「T・ジョイ エミテラス所沢」は12スクリーンを擁しています。沿線住民の遊びに行く先は ”池袋 or 所沢” へと二択化しつつあり、入間の集客はますます厳しくなっているのです。

訪問日は土曜日でしたが、残念ながら閑散としていました。唯一賑わっていたのは ”モノ消費×安売り” を武器にしたアウトレットだけであり、エンタメ集積地としての集客力は苦戦している ようです。
一方で周辺には多くのマンションが立ち並び、高い人口密度を誇っています。今後は、より生活に密着したテナントが増えていくことでしょう。
ここでちょっと本の紹介。
表紙をクリックすると、楽天市場に移ります。
気になる1冊は見つかりましたか?
selected by レイワレトロ書店
入間川の河岸段丘

今度は、入間市駅の反対側の ”北側” へやってきました。
ビルやマンションが並ぶ南側とは対照的に、駅前には 広大な更地 が広がっています。土地区画整理事業は2042年に完了予定であり、しばらくはこの状態が続く見込みです。

入間市駅を境に、南高北低に大きく差が開いている街並みですが、土地の高低差についても南高北低となっています。
このあたりの地形は、武蔵野台地の一部を入間川の流れが削ることによってできた ”河岸段丘” になっています。台地の上には中心市街地が広がっており、ちょうど低地との境目を西武池袋線が通っているのです。
日光脇往還:近世に日光と鎌倉を結ぶ。街道沿いに豊岡の街が発展。
武蔵鉄道 :近代に東京方面と結ぶ。豊岡の北側に駅が設置される。
国道16号 :現代に郊外の衛星都市を結ぶ。豊岡の西側を迂回。
国道16号線でこのあたりを走っていると、激しいアップダウンがあります。急な勾配を避けて曲がりくねる鉄道に対して、新しいバイパス道路はまっすぐ造られているのです。
武蔵野台地の縁

多くのヒトやモノが集まった台地の上には、とうとう飛行場まで造られます。
1938年(昭和13年)に開設された旧日本陸軍「豊岡飛行場」。災害に強く平坦な地形が、飛行場建設にうってつけでした。戦後は米軍に接収されて「ジョンソン基地」となり、現在は「航空自衛隊入間基地」となっています。

ありふれたベットタウンのように思えり街にも、郊外の特異点のような再開発地区と街道筋の旧市街、そして複雑な地形と歴史を擁しています。今回の街歩きを通して、まさに ”故きを温ねて新しきを知る” ことができました。
訪問日 2025年11月

