山梨県の八ヶ岳南麓エリア。今からおよそ40年以上も前に、日本的な原風景が広がる中に “不思議な塔” が現れました。
清春芸術村

山梨県北杜市。JR中央本線の長坂駅から3kmほど離れた静かな地に「清春芸術村」はあります。
かつての清春小学校跡地を活用した広大な敷地には、安藤忠雄氏のコンクリート建築「光の美術館」や、白樺派を紹介する「清春白樺美術館」などが点在しています。


中でも有名なのが、空中に浮かぶ姿が印象的な「茶室 徹」。藤森照信氏による設計で、様々な建築雑誌やガイドブックなどにも取り上げられています。
そしてもう1つが「ラ・リューシュ」です。
エッフェル氏の西洋建築

フランスの建築家ギュスターブ・エッフェルが、1900年の パリ万博のパビリオン として手掛けたこの建物は、閉幕後にモンパルナス地区へと移築され、若き芸術家たちの集うアトリエとして利用されてきました。
ここ清春芸術村にあるのは、1981年に建てられたレプリカです。
当時、パリで解体の危機にあった「ラ・リューシュ」を日本へ移設する計画が持ち上がりましたが、最終的に現地での保存が決まります。それでも夢を諦めきれず、設計図をもとに全く同じ建物を新築したのでした。1980年代の日本の勢いを感じさせるエピソードです。

エッフェル氏といえば「エッフェル塔」ということで、施設内にはかつてエッフェル塔で使用されていた本物の螺旋階段が展示されています。
さすがに階段単体からあの優美な鉄塔を連想するのは難しいものの、日本にいながら実物(の一部)に触れられるのは大変貴重な体験です。
正十六角形の塔

まるで西洋の城や要塞のような円形の建物ですが、実際には正十六角形となっています。また横幅が大きくどっしりとした姿は、重量感がありますが、一方で屋根から尖塔にかけてのスラッとしたデザインは「塔」のような印象を抱かせます。

周囲に高い人工物がない中に、そびえ立つ高さ約16mの建物はまさしくランドマークであり、その象徴性は「塔」そのものです。
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立入禁止の創作空間

それではさっそく館内へ……と言いたいところですが、実は 内部はほとんど立入禁止 となっています。
なぜならば、「ラ・リューシュ」は今もアーティストが制作を行っているアトリエだから。建物中央にある螺旋階段と吹き抜けも、周りをぐるりと取り囲む部屋も見られません。
見学できるのは、1階にある一部の部屋のみです。

てっきり自由に歩けるものだと思っていたので、少々残念でした。しかし、建物が「見学施設」になるということは、その建物が本来の役割を終えたということ。中に入れないのは「現役の証」なのです。
ジブリっぽい?
※以下、映画「君たちはどう生きるか」の若干のネタバレを含みます。

八ヶ岳南麓の豊かな自然の中に、ぽつんと佇む西洋建築。その異質さは、見る者に鮮烈な印象を与えます。まるで、ジブリ映画「君たちはどう生きるか」に出てくる「大叔父様の塔」のような。
映画に登場する塔の正体は、かつて宇宙から降ってきた隕石のようなもの。大叔父様は、それを隠すように塔を建設して、やがて自身も塔の中へと消えていきました。

外観が瓜二つというわけではありません。(そもそもあまり覚えていない)。しかし、日本の原風景の中に、西洋の塔がそびえ立つという異質さは、まさしく大叔父様の塔に感じたそれと同じものです。

劇中の塔については「崩壊するスタジオジブリの比喩」や「宇宙からやってきた隕石=インスピレーション」など、数多くの考察がなされています。
人間の想像力が凝縮された、不思議な引力を持つ塔。もしかしたら「ラ・リューシュ」の中にも、別世界への入口があるかもしれませんね。
訪問日 2025年12月
アクセス
HP:公式サイト
交通:長坂駅、日野春駅からコミュニティバスあり
