国道16号を車で走っていると、埼玉県入間市の道路脇に “謎の西洋建築” が現れます。レトロな佇まいに「あれは何の建物だろう?」と気になったドライバーも多いのではないでしょうか。
その建物の正体は、国の登録有形文化財に指定されている「旧石川組製糸西洋館」です。普段は非公開ですが、一般公開日には館内を見学することもできます。
旧石川組製糸西洋館

1921年(大正10年)に、石川組製糸の迎賓館として建てられた西洋館。木造2階建ての擬洋風建築です。
当時このあたりでは製糸業が大変盛んであり、それを牽引したのが石川組製糸でした。入間を中心に川越、狭山などに製糸工場を擁しており、1893年(明治26年)の創業から瞬く間に全国有数の製糸会社にまで成長しました。

建物は、明治・大正期の建築ではお馴染みの和洋折衷となっています。
全体としては煉瓦造りの端正な洋館ですが、立派な玄関は日本の寺院を思わせ、また2階には和室もあります。西洋建築の設計士と宮大工の競演により、今日まで残る名建築が誕生したのです。
1階 重厚な迎賓空間

館内に入ると、クラシカルな空間が広がりました。
ロビーで見学料を支払い、さっそく見学を開始します。まずは左手(順路としては最後)にある食堂。一般公開日には喫茶コーナーとして活用されており、レトロな雰囲気の中でコーヒーやデザートを楽しむことができます。

応接室へ足を踏み入れると、重厚感あふれる厳かな雰囲気に圧倒されました。これまで巡ってきたレトロ建築の中でも、上位に入る高級感です。
創業者の石川幾太郎は、はるばる豊岡(現在の入間市)までやってきた海外の要人や貿易商を接待するために、この地に建物を築きました。

製糸業は当時の日本の基幹産業であり、この西洋館は入間地域の産業力の象徴であるとともに、日本の国力と経済的な信頼性を海外へアピールする場でもあったのです。

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2階 大広間と和室とGHQ

階段を上がりまっすぐ進むと、赤絨毯が敷かれた大広間が現れました。
現役時代には、賓客を迎える華やかな歓迎会や、製糸業界のトップ層が集う社交パーティーなどが行われていたのでしょう。

華やかな大広間の隣には、ひっそりとした和室が佇みます。
この西洋館は、戦後GHQ(連合国軍総司令部)に接収された歴史があります。東京近郊の優良な洋風建築であり、ジョンソン基地(現在の航空自衛隊入間基地)が近隣にあったことから、占領軍将校の宿舎として利用されたのです。
接収中、畳敷きの和室は板敷きの洋室へと改造され、その他でも迎賓の場から “生活の場” に変えるべく様々な改造が施されました。

サンフランシスコ講和条約により日本が主権を回復すると、接収されていた施設が順次返還されます。西洋館は、再び石川家(このとき既に石川組は解散していた)のもとへと戻ってきました。
2003年には石川家から入間市へと寄贈され、現在は市の所有となっています。
国道16号線と製糸業とロケ地

ふと窓の外からは、国道16号が見えました。
現在は首都圏近郊のバイパス道路として機能している道ですが、かつては製糸製品を各地の工場から横浜港まで運び、日本の近代化に貢献してきました。

かつての “日本のシルクロード” は、現在も人々の生活や産業を支え続けています。

旧石川組製糸西洋館の一般公開日は年間40〜50日ほど設定されていますが、観光施設というよりは、むしろウェディングフォトの撮影場所や、映画やドラマなどのロケ地としての役割の方が大きいように思えます。これまで50作品以上に使われてきました。
レトロ建築は全国各地に存在しますが、都心からのアクセスの良さから、重宝されていることが伺えます。もちろん、建物への評価の高さが大前提にありますが。

国道16号から見える洋風建築は、近代では国道16号エリアの製糸業の象徴的な役割を果たし、現在は国道16号エリアならではのアクセスの良さから撮影場所として重宝されている、と言うことができそうです。
訪問日 2025年11月
アクセス・見学
HP:入間市 公式サイト
見学:一般公開日は3〜11月の週末を中心に設定。
2025年度の日程はこちらから
交通:入間市駅(西武池袋線)から徒歩5分

