日本で地下鉄が運行されているのは、東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、横浜、京都、神戸、福岡の9都市とされています。しかし、実は埼玉にも「地下鉄」があることをご存知でしょうか。
東京都北区にある赤羽岩淵駅から、埼玉県川口市、旧鳩ヶ谷市を経由してさいたま市緑区の浦和美園駅までを結ぶ「埼玉高速鉄道」です。
郊外のベッドタウンを走る地下鉄

2001年(平成13年)3月に開業した埼玉高速鉄道。翌年開催の日韓ワールドカップのメイン会場である「埼玉スタジアム2002」へのアクセス路線として整備されるとともに、川口市北東部や旧鳩ヶ谷市といった鉄道空白地帯の解消という、大きな使命も担っていました。

路線の大部分は、片側2車線の幹線道路である「国道122号(岩槻街道)」の下を走っています。
道路沿いには、広い駐車場を併設したロードサイド店舗やガソリンスタンド、中古車販売店などが延々と続いていく。いかにも「郊外の車社会」といった風景が広がっています。

まさかこのアスファルトの真下を、何百人もの乗客を乗せた6〜8両編成の地下鉄が走っているとは……。地上からは想像もつきません。
浦和も大宮も通らない

一般的な地下鉄といえば、オフィスや行政機能が集積する都心の中枢や、複数路線が交差する大ターミナル駅、あるいは賑やかな繁華街同士を結ぶイメージが強いでしょう。ところが埼玉高速鉄道は、埼玉県内最大のターミナルであり一大繁華街である「大宮」も、埼玉県庁やさいたま市役所を擁する行政の中心地「浦和」も通りません。

その一方で、起点の赤羽岩淵からは東京メトロ南北線に乗り入れており、東京都心へはダイレクトにアクセスすることができます。埼玉を走る地下鉄でありながら、その実態は “東京を核とする巨大な鉄道網の延長線上” に過ぎないのです。
ちなみに、運営を担う埼玉高速鉄道株式会社は、当時の営団地下鉄と埼玉県、沿線3市により設立されています。
既にJRによる鉄道網が充実しているさいたま市中心部。
地下鉄の通っていない浦和や大宮ですが、その代わりを担っているのが京浜東北線と埼京線です。都心への通勤通学路線をメインとしつつも、市内の拠点をしっかりとカバーしていることから、もはや “さいたま市営地下鉄” は不要なのです。
鳩ケ谷駅



起点の赤羽岩淵駅から、川口元郷駅、南鳩ヶ谷駅を経て「鳩ヶ谷駅」へとやってきました。
現在は川口市と合併した旧鳩ヶ谷市ですが、かつては長きに渡り鉄道空白地帯であり、鉄道開業による恩恵を最も受けた場所の1つとなっています。

沿線の重要拠点として位置づけられていることもあり、地上には堂々とした駅舎が設けられています。ところが立派な外観とは裏腹に、館内はスカスカ。列車が発車するタイミング以外は、人通りもまばらです。
地下の改札階にはコンビニが営業していますが、それ以外の商業機能は無し。首都圏の駅としては物足りず、せっかくのスペースを持て余しているようです。

駅の南側に出ると、国道122号岩槻街道と県道34号第二産業道路の交差点が広がっています。歩道橋の上からは、大型マンションや商業施設などが見られ、開発が進められてきたことを感じます。
駅前の集積としては物足りないものの、ロードサイド沿いの集積としては大きい。といったところでしょうか。
また駅の東側には、かつて日光御成街道の宿場町である鳩ヶ谷宿があり、現在も市街地が広がっています。

1日の平均乗車人員は約12000人で、赤羽岩淵駅、東川口駅に次ぐ3位です。(2025年)。沿線のちょうど真ん中にあり、単独駅の中では最多の利用者数です。
一方で、朝夕ラッシュ時には当駅始発・到着列車があるものの、かつて設定されていた日中の当駅折り返しの列車はすべて廃止されています。開業当初の存在感と比べると、やや薄まってしまったような印象です。
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新井宿駅

続いて、お隣の「新井宿駅」にやってきました。ルート的には、これまで並走してきた国道122号から少し外れ、東に進路を変えた地点に位置しています。
1日の平均乗車人員は約6000人(2025年)。埼玉高速鉄道の全駅の中で最も利用者が少ない駅です。


駅周辺は高台になっており、地上へ出ると一気にローカルな風景が広がりました。スーパーマーケットや一軒家、畑や空き地も目立っており駅前の一等地らしい賑わいや拠点性はありません。
まさかこの普通の住宅地の下に、地下鉄の駅があるとは……。車で通ったら気づかないかもしれません。
浦和美園駅

戸塚安行駅を過ぎ、JR武蔵野線の乗換駅である東川口駅を抜けると、列車は地上へと顔を出します。いよいよ終点の「浦和美園駅」に到着です。



開業当初は更地が広がっており、初年度の平均乗車人員は1日2000人にも満たなかった浦和美園駅。しかし2006年のイオンモール浦和美園が開業を機に、大規模なマンションや戸建て住宅の分譲が次々と進められてきました。
現在の1日の平均乗車人員は約13000人(2025年)。みそのウィングシティの玄関口として、鉄道駅らしい拠点性と、ファミリーで賑わう郊外らしい広々とした良好な住環境を備えたエリアとなっています。
さらに郊外へ伸びるのか

現在、埼玉高速鉄道には、浦和美園から岩槻を経て蓮田へと延伸する計画が存在します。特に岩槻までの延伸については議論が活発化しています。
しかし、既存の開業区間において大成功とは言い難い現状の中で、さらなる延伸には疑問が残ります。
この先の郊外へ路線を伸ばしたところで、結局は「東京へ通勤する人々のためのベッドタウン」が増えるだけ。県内の都市同士を結びつけたり、浦和や大宮の拠点性を高めるような存在ではありません。
急激な人口増加や住宅難の時代が終わりを迎えた現代において、郊外のベッドタウンの地下鉄はこれ以上は必要ない、と感じるのは私だけでしょうか。
訪問日 2026年2月
アクセス・宿泊
HP:公式サイト
運営:埼玉高速鉄道株式会社

