1985年(昭和60年)から1993年にかけて製造された伊豆急行2100系、通称「リゾート21」。海側を向いた座席や展望室などのある本格的な観光列車でありながら、全車自由席で特別料金が不要の「普通列車」として運行されています。
バブル期ならではのデラックスな造りと、経年によるレトロな渋みが同居する、地方私鉄が生んだ名車をご紹介します。
伊豆急行と観光開発史

1961年(昭和36年)に伊東〜伊豆急下田間で「伊豆急行線」が全線開業すると、伊豆半島における本格的な観光開発の幕が開きました。
首都圏からのアクセスの良さと豊富な観光資源を武器に、温泉地への団体旅行客や海水浴客を次々と獲得していきます。
観光列車の草分け

開業以来、順調に推移していた伊豆急行線の利用者数でしたが、1980年代に入ると低迷し始めます。そこで新たに開発されたのが「リゾート21」です。
普通列車でありながら、相模湾を一望する海側向きのシートや、前方と後方の展望席を備えた、 バブル期らしいデラックスな車両 となりました。1985年から1993年にかけて全5編成が導入され、一部は特急として東京駅までの乗り入れも果たします。


現在の観光列車ブームは「ゆふいんの森」(1989年)や「リゾートしらかみ」(1997年)がパイオニアとして知られていますが、リゾート21はそれらよりも数年早く運行を開始しています。
のちにJR東日本は「スーパービュー踊り子」「サフィール踊り子」を伊豆方面へ投入しますが、その源流はここにあると言えるでしょう。
ロイヤルボックスとバブル崩壊

1980年代後半からのバブル期には、伊豆急行沿線にゴルフ場やリゾートマンションが急増します。リゾート需要が加熱する中、1990年(平成2年)には特別車両「ロイヤルボックス」が登場しました。
リゾート21の編成の中に組み込まれ、グリーン車として営業を行いました。トンネルに入ると天井のイルミネーションが輝く演出があり、大きな話題を呼びました。

しかし当時のリゾート開発は実際の需要とかけ離れており、さらにバブル崩壊により客足は急激に落ち込んでしまいました。2003年にはロイヤルボックスの営業も終了してしまいました。
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黒船電車 乗車レポ:伊豆急下田▶熱海


登場から40年近くが経過し、現在運行されている「リゾート21」はすべてリニューアルされています。なかでも観光客から人気なのが「黒船電車」です。
車体には随所に年季が感じられますが、それがかえってレトロモダンな重厚感を醸し出しており、「黒船」というコンセプトに絶妙にマッチしているのです。
バラエティ豊かな座席

車内に足を踏み入れると、グループでの利用を想定したバラエティ豊かな座席空間が広がります。
海側には、窓側を向いた3人・4人掛けの長椅子や、4人用ボックス席が並びます。巨大な連続窓からは、視界いっぱいに伊豆の海が広がります。

一方の山側は、2人用ボックス席が並びます。窓も控えめな大きさで、どこか落ち着いた雰囲気に仕上がっています。
シアタータイプの展望席

先頭車両にやってくると、運転席越しの景色が楽しめる「展望席」が現れました。
座席が階段状のシアター形状になっており、最前列でなくても素晴らしい前面(後面)展望を楽しむことができます。近くを走る某ロマンスカーではプラチナチケットとなっている展望席ですが、こちらは比較的空いており簡単に座ることができました。
キンメ電車

列車は伊豆高原駅に到着しました。併設の車両基地には、もう一つの現役編成である「キンメ電車」が停車しています。
伊豆の名産である金目鯛をモチーフにした真っ赤な外観が特徴で、沿線地域の魅力を伝える広告塔として、黒船電車とともに活躍しています。
JR伊東線へ乗り入れ
伊東駅からはJR伊東線に乗り入れて、熱海駅まで直通します。車内は一気に乗客が増えますが、ローカル線にしては長い7両編成で運行しているおかげか、多くの人が座ることができました。
いくら観光地の鉄道とはいえ、普通列車は日常の移動手段。非日常あふれるリゾート21は、沿線住民からは必ずしも好評とは言えません。しかし、近年のコストカットにより短編成化されつつある各地のローカル線を思うと、ゆとりある輸送力を維持し続ける伊豆急行の姿勢には頭が下がります。
老朽化と、現存する3つの「リゾート21」
海沿いを走り続けてきたリゾート21は、常に塩害による老朽化との戦いを強いられてきました。残念ながら全5編成のうち2編成はすでに廃車となっています。



一方、1993年に最後に製造された「アルファリゾート21」は、水戸岡鋭治氏のデザインによって「THE ROYAL EXPRESS」へと劇的な転身を果たしました。その活躍は伊豆半島にとどまらず、JR東海エリアや北海道にまで広がっています。
バブル期に生まれたデラックスな普通列車が、クラシカルな装いを身に纏い、国内有数のグレードを誇るクルーズトレインへと生まれ変わったのです。

伊豆のレジャーを盛り上げる観光列車でありながら、約40年にも及ぶ稼働によって歴史の渋みも感じられるようになった「リゾート21」。運行開始当初から変わらず「普通列車」として走り続け、バブル期ならではの時間と空間のゆとりを現在に伝えています。
訪問日 2021年1月、2026年7月
アクセス
HP:公式サイト
運行:熱海←→伊豆急下田
費用:運賃のみで乗車できる

