ディズニーのパークには、船や宇宙船や自動車などの多くの乗り物がありますが、なかでも主役といえるのが “鉄道” です。
ここでは、古き良きアメリカの象徴である蒸気機関車(ウエスタンリバー鉄道)と、ローラーコースターとして独自のポジションを築いた鉱山鉄道(ビッグサンダー・マウンテン)の2つを紹介しましょう。
ウエスタンリバー鉄道

1983年(昭和58年)の東京ディズニーランド開業当初から運行している「ウエスタンリバー鉄道」。アメリカの西部開拓時代を舞台に、アドベンチャーランド、クリッターカントリー、ウエスタンランドを巡る遊戯鉄道です。
テーマパークのアトラクションではありますが、実際に蒸気機関を動力源として走行する本物の蒸気機関車を使用しており、線路幅はナローゲージの762mmを採用しています。

多くの遊園地では、SLや新幹線を模したミニトレインが存在します。しかし、ディズニーランドと鉄道にはそれ以上の深い関係があるのです。
ウォルト・ディズニー氏と蒸気機関車

1901年にシカゴで生まれたウォルト・ディズニー氏は、幼少期から青年期にかけてミズーリ州のマーセリンやカンザスシティという街で育ちます。そこで彼が夢中になっていたのが「サンタフェ鉄道」です。
当時、彼が暮らした街はいわゆる “鉄道の街” で、叔父は蒸気機関車の機関士として、ウォルトと兄も車内販売員として働いていました。まだモータリゼーションが起こる前の “鉄道黄金期” を謳歌したウォルトの原体験は、後のビジネスにおける強い原動力となります。

大人になり、実業家として大成功を収めたウォルトは、1950年に自宅の庭へ本物の1/8スケールのミニチュア蒸気機関車を敷設します。
この自分の鉄道を、もっと大きな敷地で、たくさんの人に乗ってもらいたい。そんな個人的な執着が、やがて「ディズニーランド」という壮大な構想へと繋がっていくのです。
ノスタルジックとテーマパーク

紆余曲折を経て、1955年にカリフォルニアにオープンした「ディズニーランド」。
パークの外周には蒸気機関車が走り、入口から左半分にかけては、古き良きアメリカが再現されています。ウォルトの個人的なノスタルジックが、パークに色濃く反映されているのです。


ゲストは最新のアミューズメント施設にやってきて、アトラクションに興奮し、非日常の世界観に魅せられてパークの虜になっていきました。
しかしその一方で、人々はスクラップ・アンド・ビルドを繰り返す過酷な現代社会から逃れ、そこに再現された “古き良きアメリカ” の姿に深く安らぎを覚えたのではないでしょうか。

日本版ノスタルジーの現状
ここで、同じことを日本で考えてみましょう。
日本の観光地は「古い町並み」が多くあり、昔ながらの雰囲気を味わいながらグルメや温泉などが楽しめます。古き良きものへの根強い需要は、間違いなく存在するのです。

また観光地には「昭和レトロミュージアム」もしばしば見かけます。昭和に強い執着を持った個人が、自らの情熱で施設を造り上げる姿は、まさにウォルトの姿に重なります。
ノスタルジーには人々を惹きつけて離さない強い磁力があり、時には「もう一度その世界を現代に蘇らせたい」という強い原動力にもなり得るのです、
しかしながら、アメリカのノスタルジーが世界を席巻しているのに比べると、日本のレトロカルチャーはまだまだ国内のローカル消費に留まります。
そんな中で、2021年に「西武園ゆうえんち」が “昭和レトロ” をテーマにリニューアルオープンを果たしました。


これは純国産の日本版ディズニーランドになるのでは、と期待していたのですが、その後の追加投資は子ども向けのミニアトラクションやアスレチックなど、なんだか開発の軸がブレているように感じます。
コンテンツの寄せ集めではなく、人々に夢を与えるノスタルジックでエキゾチックな「ニュー昭和レトロ」を徹底して創り上げてほしいところです。
ノスタルジックは古くならない

ディズニーランドの右半分は「未来」、奥は「ファンタジー」がテーマとなっていますが、そこで描かれた未来予測や理想郷は、いざ本物の未来がやってくると “ズレ” が生じるようになりました。
その隙間を埋めるため、ガソリン自動車や宇宙ロケットは姿を消し、子どもだけの世界にはディズニーキャラクターが追加されます。
一方で、すでに歴史として完結している19世紀や20世紀のアメリカは、現実の未来がどうなろうとも古びることはなく、ズレることもありません。できた時点で完成しており、修正は不要なのです。

そう考えると、完結した「過去」は最強のIP(知的財産)なのかもしれません。日本各地に江戸時代の町並みを模したテーマパークがあったり、沖縄にできた新しいテーマパークに恐竜がいるのも、そういうことでしょう。
一方で、東京ディズニーリゾートという莫大な収益を稼ぎ出している超一等地において、このエリアは少々場所を取りすぎています。再開発という不穏な噂もあり、今後の行く末が気になるところです。
ここでちょっと本の紹介。
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ビッグサンダー・マウンテン

ディズニーランドでは拡張の歴史の中で、未来の「モノレール」や都市鉄道である「路面電車」「高架鉄道」など、さまざまな鉄道を登場させてきました。
なかでも圧倒的な人気を誇るのが、ゴールドラッシュに湧いた岩山を駆け抜ける「鉱山鉄道」です。

日本のビッグサンダー・マウンテンは、東京ディズニーランドの開園から4年後の1987年(昭和62年)に登場しました。
後に、(初代)スペースマウンテン、スプラッシュマウンテンと合わせて「三大マウンテン」と称され、パークの人気を牽引しました。
厳しい地形を攻略する鉱山鉄道

ディズニーランドのローラーコースターの代表格と目されることも多いビッグサンダー・マウンテンですが、最高時速は約40km、最大落差も約10mと、スペックだけ見れば子ども向けのミニコースターと同等です。
それにも関わらず、なぜ大人から子どもまで幅広い世代から支持されているのか。それは絶叫度競争とはまったく違うフィールドで戦っているからです。

通常のローラーコースターは、何もない空間に鉄骨が組まれて、意図的にアップダウンを繰り返すコースが造られます。一方でビッグサンダーマウンテンでは、自然の岩山や谷の隙間、洞窟の中を縫うようにコースが敷かれています。
地形的な必然性からこのルートを走っている、という見せ方においては、他の追随を許さないほどのレベルであり、それが他では味わえない没入感や爽快感を生み出しているのです。(もちろんその地形は、すべて造り物ですが)。
ローラーコースターとしての魅力

2016年のイグノーベル賞で「ビッグサンダーマウンテンに乗ると尿路結石が排出されやすくなる」という研究結果が大きな話題になりました。その治療アプローチの斬新さもさることながら、世界中の数あるローラーコースターの中からこのアトラクションが名指しされた点に、ブランド力の強さを実感します。
最後に、なぜビッグサンダー・マウンテンはこれほどまで人々に愛されているのか。その理由を3つ挙げて結びとします。
1:スリルを敢えて抑えている
これにより絶叫系が苦手な人を含めた “幅広い客層” と、小さな子どもたちが初めて挑戦する “絶叫系の登竜門” としての地位を確立しました。
2:巻き上げが3回もある
最初の1回の巻き上げ後に山場を終えて尻すぼみになりがちな通常のコースターと違い、3回も巻き上げをすることで、後半まで何度もクライマックスがやってきます。
3:圧倒的な輸送力
1編成30人というキャパシティと、2つの乗り場からの交互発着により、本物の鉄道さながらの高効率輸送を実現しています。だからこそ、多くの国民が「乗ったことがある」という状態を作り出せるのです。
訪問日:2026年5月


